
高齢でも健康な口腔を保ち続ける人は、硝酸還元菌の多い健康型の口腔フローラを保有していることが発見される
花王株式会社(社長・長谷部佳宏)ヒューマンヘルスケア研究所は、歯周病の初期段階(軽度歯周病)ですでに、歯周ポケット内の口腔フローラが、歯肉に炎症がなく口腔内が健康な状態の人(健常)とは異なることを確認しました。さらに、健常な人において、高齢者のほうが若年者よりNeisseria(ナイセリア)属をはじめとする、う蝕(しょく)・歯周病予防に寄与する可能性のある「硝酸還元菌」が多いことを見いだしました。
これらの成果は、口腔内の菌を減らす従来のオーラルケアに加え、硝酸還元菌の比率を高めることで健康な口腔フローラの形成を促すという、新たな視点でのケアが重要である可能性を示唆しています。
今回の成果は、2025年6月24日に歯周病科学に関する世界的学術誌Journal of Clinical Periodontologyに掲載されました。
背景
歯周病は、歯の喪失を引き起こすだけでなく、さまざまな全身疾患のリスク因子となることが知られており、加齢とともに罹患率が高まります。そのため、生涯にわたる健康維持には、歯周病の予防が重要です。
研究内容
従来の歯周病ケアは、歯周病に関連する菌を減らす「殺菌」に重点が置かれてきましたが、日本人の歯周病罹患率は依然として高く、殺菌のみのケアでは不十分であると考えられます。そのため近年では殺菌に加えて、口腔内に共生する多様な菌のバランスを整える「口腔フローラ制御」というアプローチが注目され始めています。
歯周病が進行した人の口腔フローラは、歯周病に関連する菌の割合が多いことが知られていますが、歯周病に進行しつつある人の口腔フローラの状態は十分に解明されていません。そこで今回花王は、歯周病の初期段階にある人や、高齢になっても健康な口腔を維持している人に着目し、その口腔フローラの特徴について検討しました。
研究結果
花王は、20~79歳の男女163名を対象に、歯科臨床指標の測定と歯肉縁下歯垢の採取を行い、口腔フローラ解析を実施しました。健常群と軽度歯周病群の口腔フローラをβ多様性解析により可視化しました。この解析ではサンプル間の類似度を二次元の図に表すことで、特徴が似ているもの同士が近い距離にプロットされます。解析の結果、健常群と軽度歯周病群は異なる口腔フローラの特徴を有していることが示されました。
健常群でも、高齢者のほうが若年者より硝酸還元菌が多い口腔フローラを有することを発見しました。これらの結果から、健常な高齢者は、ナイセリア属をはじめとする硝酸還元菌を多く含む口腔フローラを保つことで、健康な口腔環境を維持していることが示唆されました。
まとめ
花王は、軽度歯周病において、すでに健常とは異なる口腔フローラが形成されていることを確認しました。さらに、歯周病が増える傾向にある高齢でも健康な口腔を維持している人は、ナイセリア属をはじめとする硝酸還元菌がより多く存在する特徴的な口腔フローラを形成していることを明らかにしました。
今後花王は、硝酸還元菌の比率を高め、健康型の口腔フローラ形成を促進することができるような研究・提案を進め、生活者が生涯にわたって健康な口腔を維持できるよう、予防歯科の推進に貢献していきます。