クリエイティブ
04月17日
母が癌を患ったとき、結婚も子供もいない自分にできる恩返しは何か——そう考えたのが始まりだった。母が夜な夜な灯すろうそくを見て、百均の材料で作った一本をSNSに載せると、思いがけず反響が。恩返しの思いから踏み出した道が、今の生き方になっている。
Q&A
インタビュー
現在のお仕事を教えてください
私はキャンドル作家として活動しながら、ロゴのデザインやアパレルのデザインもしております。キャンドルだけではなく、自分の洋服のブランドのロゴを作ったり、いろいろな方からご依頼をいただいてロゴをデザインしたり、自分の洋服のデザインも手がけたりしています。店舗は持っていないのですが、オンラインではInstagramやBASEというサイトを通じて販売したり、イベントで対面販売をしたりしています。
この仕事を始めたきっかけは
もともとはサラリーマンで、8年前まではエンジニアとして働いていました。ですが、私の母親が癌になってしまい、命が危ないという状況になったんです。結婚もしておらず子供もいなかったので、恩返しをしなければと思いました。よく夜な夜なろうそくを灯していて、私もそれを見ていて、これで何かできないかと考えたんです。それで百均に行ってろうそくを買い、溶かして型にはめて、それをFacebookにあげたところ、いろいろな方に見ていただいて「すごい」と言ってもらえました。それなら、これを目指して頑張って恩返しをしようと思い、今に至るという流れです。
作風はどのように確立していったのですか
最初は全然定まっておらず、どういうものを作りたいかというのもありませんでした。それでも、この道を極めようと思い、実際にキャンドルアーティストになるための資格を取得したんです。東京の南青山にキャンドルの学校があるのですが、そこに通い、筆記試験や実技を受けて合格し、初めて認められたアーティストになりました。それから、男性の作家がなかなかいないので、自分の趣味も生かして何かできないかと考えたんです。自分流のスタイルを仕上げるまでには時間がかかってしまいましたが、なんとか形にできたという感じですね。
始めた頃はどんな悩みがありましたか
恩返しのためでしたから、売上も作りたい。でも、上には先輩方がたくさんいらっしゃるので、到底かないません。自分のスタイルもまだありませんでした。だから、何を作りたいんだろう、何を販売したらいいんだろうというところで、ずいぶん迷いました。自分の形になるまでには、やはり時間がかかったなと思います。
制作の工程を教えてください
もともと、私たちが使う業務用のろうそくがあるんです。米粒まではいきませんが、小粒より少し大きいくらいの粒で、それをたくさん買ってきます。業務用のろうそくは20キロで、今はだいたい2万円くらいですね。そういった材料を買って溶かし、着色専用の塗料をつけて流し込みます。固まるまでに時間がかかるので、半日から1日ほど置いて、やっと完成です。完成まで時間がかかるうえ、いろいろな色を配合するので難しく、自分のイメージ通りにならないこともあるんですよね。熱の問題などもありますので、そういった部分はありますが、工程としてはそんな感じです。
制作でこだわっているのはどこですか
溶かしたろうそくを流すことを注蝋というのですが、流すときにはある程度の温度が必要なんです。一定の温度で流さないと、イメージしているものに全くならなかったり、ひびが入ったり、ムラが出たりしてしまいます。ですから、温度の管理は徹底的に行っています。あとは、強度を加えることもあります。ろうそくの材料に添加物を加えると、周りの強度が高まったりするので、そこは気をつけなければいけません。割れたりするとクレームにつながってしまうので、そういったところには気を使っていますね。
一番苦労したことは何ですか
私自身もとても悩んだのですが、これはいろいろなハンドメイド作家がみんな通る道でもあります。作っているものが、形や色で他の方と被ってしまうんです。結局、自分は何を作ったらいいんだろうと、今まさに迷っていらっしゃる方もたくさんいると思います。その中で、いかに自分のスタイル、誰とも被らないものを探し出すか。自分の色を見つけるのは、なかなか大変だなと思いますね。
やっていてよかったと思う瞬間は
実際に前の仕事をやめて今の仕事をしているのですが、作ったものが売れたとき、自分の作品が認めてもらえたときは、やっていてよかったなと思います。また、その売上を寄付したりすると、お礼のお手紙をいただくことがあるんです。そういうときにも、やっていてよかったと感じます。それから、自分の作った作品を誰かが人に紹介してくれて、それを通じて「欲しい」と言ってくださる方もいらっしゃいます。そういうときも、やはりやっていてよかったなと思います。作って良かったから他の人にも紹介するよ、という良い連鎖が生まれるので、それもとても良かったなと思いますね。
一番テンションが上がるのはいつですか
実際にろうそくを流して固め、型から抜くのですが、抜かないと中がどういう色になっているか見えないんです。抜いたときに色の混ざり具合が良いと、とてもテンションが上がります。きれいだな、これは売りたくないな、という気持ちにもなるくらいで、そういうときが一番テンションが上がるかもしれません。あとは、自分が作ったものを山などで灯すこともあるのですが、山の景色と自分の作品がぴったりマッチしたときも、テンションが上がります。
自営ならではの不安はありますか
自営なので、やはり波があるんですよね。売れる売れないという部分で波があって、キャンドルなので夏になると売上が下がってきてしまうんです。暑いですし、火をつけたくないという時期ですから。そういうときに、どう売上を作ろうかと考える瞬間は、やはり少しハラハラしますね。
印象に残っている出来事は何でしょう
東京の下北沢で、クリスマスにろうそくを灯すイベントがあるんです。いろいろな作家さんが、それぞれ自分の作ったキャンドルを下北沢の街に灯す、そのコンテストなんですね。その中で、自分が出した装飾キャンドルが皆さんの投票で選ばれて入賞したのは、とても嬉しかったです。こういうことを東京の世田谷でやりたいという方もたくさんいらっしゃって、その中で灯させていただき、賞が取れたことは、自信につながったなと思います。
業界に入って驚いたことは何ですか
驚いたことは、男性の作家が全然いないということです。女性の作家が、おそらく9割だと思います。ですから、もともと男性がろうそくを好きになっていいのかな、という感覚の方が結構多かったんですよね。私はこういう見た目なのですが、そんな私を見て「キャンドルいいね」と、実際に使ってくれる人が周りにも増えていきました。思った以上にびっくりしたのは、女性の層が圧倒的に強いということです。アーティストもそうですし、買い手もそうです。私がもしこれをやらなかったら、男性がこういうものを買ってもいいのかなという、どうしても女性のものというイメージが強すぎたと思います。そういったところを少し変えられたのかなと思いますし、そういう人が増えて、今はだいぶ変わってきたのかなと思います。
頭の中はいつも作品のことですか
仕事をしていないときも、基本的には、今後どういう色を作っていこうか、どういう形を作ろうか、どういう場所で灯そうか、ということが常に頭の中にあります。ですから、切っても切れないというか。でも結局、遊びが仕事にもなっているので、ワクワクすることを考えています。こういうことをやったら喜んでくれるかな、評価してくれるかな、ということはいつも考えていますね。ここに来る道中も考えていました。例えばどこかを走っていて、ここで灯したいなと思ったら、ろうそくに火をつけて、その場で写真を撮ったりもしています。
業界のために取り組みたいことは
この業界もそうですが、途中でやめてしまう方が多いんです。売れないからやめてしまう、人と被ってしまうからやめてしまうという方が、自分の周りにも結構いました。ですから、そうならないように、いろいろな作家さんや先輩方がフォローしてあげて、やめずにずっと続けられるような環境づくりを、私たちがやっていかなければいけないなと思います。これからやってみたいという人に対して、楽しいんだということをもっとたくさん伝えて、そういう人を、アーティストを増やしていきたいという思いがありますね。
日々どんな研究をしていますか
そうですね。先ほどの、人と被らないという話にもつながるのですが、実験をするんです。この材料にこういうものを加えたらどうなるのか、これを加えることで燃焼時間がどれくらい上がるのか、といったことをひたすら続けています。人と差別化するというわけではないですが、喜んでくれるものを作りたいので、そういった点で技術の向上に取り組んでいますね。
アーティストとビジネスのバランスは
アーティスト志向は強めだと思います。ビジネスはどうしても大事なのですが、ビジネスばかり考えてしまうと、自分の作りたいものが作れなくなってしまう。ですから、現状としては、自分が作りたいものにビジネスがついてきてくれればいい、という感じですかね。いわゆる量産型にならないように、あくまで自分のスタイルを見ていただき、評価して対価を得る。そういう意味で、一応キャンドルアーティストと名乗っています。
キャンドルの魅力はどこにありますか
ろうそくは、だいたい皆さん灯したことがあると思います。法事で使うような、本当に細いろうそくですね。一般的に売っているキャンドルは、それより少し大きかったりします。実際にそういうものを灯すと、普通のろうそくとは癒され方が違うというか、見ているだけで癒されるんです。あとは、これは糸でできた芯なのですが、ウッド芯といって、枝でできた芯もあるんですよ。それに火をつけるとパチパチと焚き火のような音がします。家の中で、より小さな焚き火を楽しむようなイメージですね。焚き火の音を聞きながら癒されることもできるので、究極の癒しなのかなと思います。
キャンドル作家を目指す人へ
そうですね。女性の方は、作家になりたい、自分の家で教室を開きたいという方が今も多いです。逆に男性の方も、ろうそくが好きだという方が増えてきたので、今度は自分のような作家が増えてきたら、本当に嬉しいなと思います。男性でもろうそくを作って悪くないんだよ、ということを広めていきたいなと思っています。また、チームとして何か大きなことをして、大きなイベントを作りたいという思いもありますね。
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