漫画でもゲームでも、知識が身につくなら方法は問わない。大切なのは親ではなく子ども本人が納得すること。そう考えて向き合ううちに、生徒は少しずつ心を開いてくれる。長年の指導で培った、相手を見る目と教えることへの信念を聞いた。
Q&A インタビュー
現在のお仕事を教えてください
フリーランスで、家庭教師と塾講師をメインにやっています。日曜日などは、試験監督の単発の仕事もしています。家庭教師は主に小中学生が中心で、ご家庭を訪問してお子さんを教えるのが本来の形なのですが、コロナ禍以降、そうした訪問型のオーダーが少なくなりました。そのため今は、オンラインでタブレットを使って教えるスタイルも増やしてきている、という感じですね。
家庭教師を本業にしたきっかけは
家庭教師自体は、大学時代にアルバイトでずっとやっていました。就職のタイミングでは、まったく関係のない飲食業の会社に勤めたのですが、しばらくやってみて自分には向かないなと思い、その後はカメラ屋や広告代理店に就職して、しばらく教育から離れていました。ただ、やはり難しいなと感じて、そこから学習塾に就職したんです。しばらく勤めていたところ、その塾が「家庭教師は正社員のみにする」という方針になり、私に話を持ちかけてくれました。正社員になれば収入も安定するし、家庭教師1本でできるので、これは良いんじゃないかと思って就職しました。そこで水戸支部を立ち上げることになり、1号社員のような立場でずっとやっていたのですが、競合他社が強く、だんだん立ち行かなくなって、水戸支部は撤退することになってしまいました。私はもともと地元の人間で、両親もまだ健在ですが高齢なので、離れた県の支部に移るのは厳しいなと思いました。それで決意して退職し、そこからフリーランスになったんです。自分でいろいろな家庭教師の会社に登録したり、塾講師の募集に応募したりして、家庭教師の登録センターも学習塾も複数掛け持ちするような形でやり始めて、現在に至る、という感じですね。
フリーランスの収入は安定していますか
安定度で言うと、正直なところ安定はしていないですね。収入にはバラつきがあります。というのも、家庭教師は大体、小学生や中学生の受験が目標としてあって、基本的に合格すればそこで終わりなので、また新しい生徒を探しに行かなければならない、というのが一つあります。それから、ここ数年の傾向として、学習障害やLD、ADHD、自閉症といった生徒さんが増えてきているんです。そうなると、ただ勉強を教えればいいという感じではなくなってきますし、かといってこちらも医者ではありませんから、そこでトラブルが増えてくる面もあります。なかなか仕事を進めるのが難しいのですが、こちらで生徒を選り好みしていては当然収入にならないので、そういった意味での不安定さ、やりづらさは、ここ数年少し増えてきていると思います。
報酬はどう支払われる仕組ですか
これもいろいろあります。例えば、家庭教師の登録センターから支払われる場合は、入力画面があって、そこに「今日は誰々さんを何分やりました」と入力すると、決められた時給設定に沿って計算されるんです。そのデータがセンターに送られて、月に1回支払われる、という仕組みです。もう一つは、さきほど言ったような教材販売会社のようなところで、ここは基本的に給与の支払いにはノータッチなんですね。ですから「ご家庭から直接もらってください」という話になります。何日に何の科目を何分やったか、というデータは送って管理はしてくれるのですが、給与そのものは直接ご家庭からいただく形です。オンラインの場合は直接振り込んでもらったり、訪問の場合は最終日に直接手渡しでいただいたり、という感じですね。
保護者からのクレームはありますか
単純なところでは、テストの点数が上がらない、あるいは志望校に受からない、といったことですね。その責任を100%私に押しつけられることは、当然あります。ただ、キャリアが長くなってくると、そういうこともあまりなくなってきました。オンラインの場合は、結局、設定などを親御さんがやるので、生徒さんの脇に親御さんがいることが多いんです。そうすると教えている様子がわかって、こちらが一生懸命やっているのが伝わるので、あまりクレームは出ません。けれども、ご家庭に訪問して、親御さんが完全に別の部屋に行ってしまうと、何をやっているかわからない。そこで子供が学校のテストを持ってきて点数が上がっていないとなると、「これはどういうことですか」という話になることは、訪問の場合はありますね。
教え始めた頃に苦労したことは
やり始めた頃は、大学時代に少しやっていたのを思い出しながら教えていました。ただ、塾なので1対1ではなく、1対10くらいで、生徒のレベルもいろいろなんです。通り一遍の教え方だと、分かる人は分かるけれど、分からない人は分からない、ということになってしまう。かといって、分からない生徒ばかりの面倒を見るわけにもいきません。そこがまず一番苦労したところですね。それから、その塾にはもともと用意された教材はあるのですが、「先生なりのオリジナルを作ってくれ」とも言われるんです。正社員で入っていたので、その時も大変だなと思いながらやっていました。ただ、そこで実力をつけられたのも事実で、どう教えれば理解してもらえるか、というコツは、そこでつかんだような気がします。
経験を重ねて身についた力は何か
相手の反応を見て、理解度を測れるようになったことですね。ただ単に問題をやらせてみて、できないから「これはこういう解き方でやるんだよ」と教えるだけなら、大学生のアルバイトでもできます。けれども、間違った原因、どこでつっかかって、なぜこういう間違いをしているのかを察する、というのは別の力です。少し前の単元まで戻ってやらせてみてつかんだり、表情を見て判断したり。基本的に「分かった?」と聞くと、だいたい「分かった」と言うんですよ。でも、やらせてみるとできない。そこを本当に分かっているのか、いないのか、表情や、反応までのタイムラグなどで測る、ということが、長年やっているとつかめるようになります。
この仕事で一番嬉しい瞬間はいつか
一番は、受験生が相手であれば、志望校に受かったという報告を受けた時ですね。受験生でなければ、テストの点数が上がった時です。点数だけ見せられても、それはそこそこ嬉しいのですが、やはり本人から直接「先生に教わって良かった」というようなことを言われると、それが一番嬉しいですね。もっとも、あまり言われないのですが。親御さんからは「ありがとうございます」とよく言っていただきます。それはそれで嬉しいのですが、子供の立場からすると、自分から希望して家庭教師をやりたい、塾に行きたいという子はほぼいないんです。無理やり行かされている、やらされているという感覚ですから、その子供から直接言われれば、本当に喜んでもらえているんだなと感じます。そこが一番嬉しいところですね。
報酬への納得感はありますか
納得感は、全くないですね。大学生と同じ額しかもらえないので。さきほど言ったプロ制度のようなものがあればいいのですが、ほぼないんです。ですからこちらは、涙を飲んで、大学生と同じ値段でやらせていただくことになります。そうしないと、仕事も回してもらえなくなってしまいますから。結局、今自分が持っている経験値を生かそうと思うと、この仕事しかないのかな、というところですね。もうつぶしが利かないというか、今更ほかの仕事をしてもなあ、という思いもあります。
仕事のやりがいは何ですか
やはり、世の中に貢献できているという喜びが一つあるので、それがうまくレスポンスとして返ってくるのであれば、続けていくべきなんだろうなと思います。それがないと、続けていけないですね。そこは大事なところです。だいぶ前の話なのですが、彼女がいた時、その子の仕事がパチプロだったんです。それで「これは何かに貢献しているのかな」と一瞬考えました。本人も、社会に貢献する仕事ではないと分かっていて、「でもこれしかできないから」と言っていました。これは仕事なんだろうか、そういうものもあるんだな、と考えたことがあります。結局、パチプロで稼いだところで、それで誰かの喜ぶ顔が見られるかというと、見られないでしょうね。パチンコ屋にとっては損害でしかなく、お金を持っていかれるわけですから。誰が得をしているのかというと、本人だけだよね、と。そんな疑問を、ずいぶん前ですが感じたことがありました。基本的には、お互いがWIN-WINでないと上手くいかない、ということがあると思います。
教えるうえで大切にしていることは
昔も、今でもそうですが、子供が勉強しないと、「漫画ばかり読んでいる」「ゲームばかりやっている」「テレビばかり見ている」、それをやめて勉強しなさい、という親御さんは多いと思います。ただ、私の持論としては、結局、知識が入ってくるのであれば、ツールは問われないと思うんですね。本を読もうが、漫画を読もうが、ゲームをしようが、テレビを見ようが、ラジオを聞こうが、インターネットも含めて、それが知識としてちゃんと蓄積されるのであればいい、と思っています。ですから教える時には、「先生は、漫画を読むな、ゲームをやるな、とは言わないよ」と伝えます。そこから何か覚えられる、身につくものがあるなら、先生は何でも構わないと思っている、ということは言うんです。それを聞いて、親御さんがむっとすることもあるかもしれません。けれどもこちらとしては、親御さんよりも当人を相手にしているので、当人が納得してくれればいいと思っています。そうすると、心を開いてくれるんですね。「この先生は分かってくれる先生だ」という感じになるので。
将来について不安に思うことは
心配なのは、もちろん年齢もそうですし、正直なところ、将来の年金はどうなのかな、というのはリアルな問題としてあります。それに、この仕事で何が怖いかというと、記憶力が落ちるのが怖いんですね。現に、うちの父親が認知症で施設に入っているので、その血を引いているとすると、自分もその可能性は高いだろうな、と思います。
これからの展望をどう描いているか
将来に向けて、明確なビジョンを持っているわけではないですね。というより、今をどうにかしなければならないので精一杯です。ただ、ここまで来たら、やめるという選択肢はありません。できれば、体が動いて頭が明晰なうちは、何歳になっても続けたいなという思いはあります。
転職や独立を考えている方へ
自分の失敗談を基にした話になってしまうのですが、成功談というよりは、という前提でお話しします。正社員で働いていて、仕事の内容が気に入らないとか、人間関係がうまくいかないといった理由で、衝動的にやめてしまう。あまり目先のことを考えずにやめてしまうと、少し苦労しますよ、と。その後すぐには、おそらく仕事は見つからないですよ、というのが一つです。それから、軌道に乗せるために何が必要かというと、違う畑に行ってしまうのであれば、それまでの経験があまり役に立たないので、そこで変なプライドを持ってしまうと、まずうまくいきません。何歳になっても新人の気持ちでいかないと、なかなか周りとも馴染めないし、仕事も振ってもらえないですよ、と。あとは、フリーランスなど自分が中心になって、いろいろ計画やプランを立ててやるわけですが、その時にあまり視界を狭めてしまうと、つまずくことがあります。ですから、しっかり視野を広げていかないといけません。そこは、人生経験が長ければ、ある程度リカバリできるという利点はあるかもしれません。それと、フリーランスは基本的に、よほどのことがない限り、特に今のご時世では、大儲けはできないだろうなと思います。よほどのアイデアがないと難しい。アイデアというのも、ある程度は予測ですよね。どのくらいのニーズがあるのか、どのくらいの顧客数がいるのか、そういったことをある程度リサーチした上で、きちんと準備をして始めないと、なかなか大変だと思います。そういうアドバイスはしたいと思います。