技術より先に、相手との信頼関係を築くこと。理学療法士の伊藤さんが何より大切にするのは、人として向き合う姿勢だ。自分たちは先生ではなく伴走者——少し後ろか隣を歩くように、相手のペースに寄り添う。人に興味を持てるかどうかが、この仕事の前提だと語る。
Q&A インタビュー
今のお仕事について教えてください
今、私は理学療法士として働いていまして、訪問看護ステーションから訪問リハビリの仕事をしています。一言で言うと、リハビリ病院などでご病気をされた方や怪我をされた方を対象に、リハビリを専門にする職業ですね。私は理学療法士という国家資格なのですが、ほかにも作業療法士という同じようなリハビリの資格があったり、言語聴覚士、言葉のほうですね、といった形で、概ね3種類ほど、医療系のリハビリ職の国家資格があります。
どんな場所で働くことが多いのでしょうか
多いのは病院や高齢者の施設、あとは街中のクリニックや小さな病院もそうですね。もう少し範囲を広げると、子どもさんを対象にした小児の施設もあります。数は少ないですが、スポーツ分野でオリンピック選手やプロの選手に同行するといった働き方もありますね。
資格はどうやって取得するのでしょうか
まず、資格を取るために、養成校が全国にあります。大学や専門学校で、3年か4年ほど通うのですが、そこに行って卒業したときに、初めて受験資格がもらえます。それで国家試験を受験する、という流れです。
この仕事を目指したきっかけは
私の祖母が、もともと両方の股関節があまり健康ではない状態で、人工関節が入っていて足が痛いというのを、幼いときから見ていました。そのときは特に何も思わず、足が悪いのだな、という程度だったのですが、そういう職業があると知って、いいなと思ったんです。実は私は、この仕事に就く前はスポーツクラブのインストラクターをやっていました。そこでも、来られる方に膝や腰が痛いという方が多くて、よくなろうとして来ているのにまだ痛みが取れない、という状況にすごく違和感があったんです。それで、社会人になって3年ほど働いてから学校に入り直し、20代半ばぐらいに専門学校に入りました。スポーツクラブで運動を教えていたのですが、痛みが引くという実感は、正直その時はあまり感じられなくて。もう少し深掘りして体のことを知らなければいけないのかな、と思ったものの、当時は資格を持っているスタッフがほとんどいなかったので、自分で勉強し直してみようかな、というのがきっかけだったのかなと思います。
特に神経を使うのはどんなことですか
一番は、お相手が人なので、リハビリをする以前の、かかわり方や距離感ですね。信頼関係を築くというところがないと先に進めないので、そこはまず気をつけなければいけないところかなと思います。どれだけ技術があるスタッフでも、リハビリをさせてもらえなければ何もできませんし、もう来なくていいと言われてしまうと手も足も出ません。そこはやはり、今でもそうですけれど、課題だと感じるところではあります。
この仕事で良かったと思う瞬間は
患者さんや利用者さんが、こちらも含めてなのですが、ご自身で良くなったと実感されて、これができたよ、前より良くなったよ、と思ってもらえた瞬間は、すごく嬉しいですね。少し前まで、どう考えてもなかなかうまくできなかったアプローチが、こうやってみたら効果が出た、というときには、自分自身も少し成長できたのかなと、こちら側としても嬉しく感じます。
この仕事の面白さはどこにありますか
私自身は、本当にさまざまなタイプの方と関わるので、それ自体が面白いです。怪我をしていようがいまいが、人それぞれの考え方や、これまでの生い立ちも含めて、お話ししていく中で見えてくるものがあって。リハビリからは少し離れてしまうのですが、そういうバリエーションがあるのは楽しいですね。
きついと感じるのはどんなときでしょうか
さきほどと逆で、関わっていってもなかなか結果につながりにくかったり、自分の中でうまくできないなと思ってしまったりするときですね。あとは、リハビリ自体の必要性を感じてもらえなかったり、ご自身が良くなろうという思いを閉ざしてしまったときです。同じ方向を向けていないと、そこに一番苦労します。
働き方や勤務時間について聞かせてください
今は、お休みもしっかりあるので、その面でプライベートに食い込むほどの業務量があるわけではなく、決まった業務時間内で、残業もそんなにないですね。業界としても、在宅医療の分野では、リハビリに関してはそもそも夜勤がまずないので。これは多分、今私がお伝えしている内容で合っていると思うのですが、ただ病院になると、またちょっと形が違ってくるかなと思います。件数は平均で、だいたい一日6件くらいですね。なるべくその間の時間は移動時間として確保するようにしていて、万が一遅れた場合はどうにか調整したりします。毎日6件というわけではなく、曜日によって少し多くなったり少なかったりします。一回あたりはだいたい1時間が多いのですが、保険の制度によって、医療保険で受けている方や介護保険で受けている方がいて、その時間が若干違ったりするので、40分で終わる方もいます。そのあたりはうまく調整して、なるべく収まるようにしています。
資格取得後も学び続けるのですね
最近はなかなかできていないのですが、勉強会や研修会に行ったり、新しい文献を見たりというのは、もう日々のことですね。資格を取ってからも情報は変わっていきますので。これは個人の好みによる部分ですが、例えば呼吸器系の専門的な資格があったり、心臓に強いリハビリをするための資格があったり、糖尿病などに特化したリハビリが得意な方はそういう資格を持っていたりと、プラスの資格を取る方は取ります。私も、以前は呼吸器系の資格を持っていました。ただ更新はしなかったので、今は資格としては持っていないのですが、必要なものだったと思っています。
開業や資格の位置づけについて
私たちの資格でも、開業している人は中にはいます。ただ、これは少し資格の話になるのですが、理学療法士というのは「名称独占」といって、資格がないとその名前を名乗ってはいけない、というものなんです。だからこの仕事自体は、正直どなたでもできますし、法律上はやってもいいんです。ただ名前を名乗ってはいけない、というだけなんですね。少しわかりづらいのですが、お医者さんや看護師の行為は「業務独占」といって、資格がなければ一般の人がやってはいけません。一方で私たちの仕事は、やっても問題ないんです。今からやっても全然問題ありません。そうです、名乗ってはいけないだけで、名乗っていいという資格だけなんですよ。誰がやっても許されている行為をしている、ということなんです。
収入面についてはどう感じていますか
生活ができないわけではありません。ただ、これは医療全体に言えることだと思うのですが、「やりがい」という言葉や、人に寄り添う思いやりといった綺麗な言葉の中に隠されてしまっているような、だからいいでしょう、というところが正直ある気はします。高いかどうかはわかりませんが、今のところはやりがいと収入は見合っているのではないかと思います。すごく不満があれば、また別のところに行くと思いますので。在宅の訪問と病院、クリニックとでは、それぞれ体系が全然違っていて、一番在宅が高いほうかもしれません。病院は少し低くて、クリニックの外来だと、もう少し低いような傾向になります。
別の道に興味が湧くこともありますか
この仕事が嫌いになって、ということではなく、むしろ違う仕事や違う世界を知らないな、というのがあるので、それを見てみたいという思いのほうが強くて、そう思うことはあります。ただ、まったく同じこの仕事を、これから歳を重ねていく中で続けていくのは難しいと思うので、同じ場所に戻るということはないと思います。それでも、この知識やキャリアを生かして、別のことをしようとは思っています。
あなたにとって仕事はどんな存在でしょう
人生の中で占める割合は、結構大半かなと思います。時間的にも長いですね。私にとっては、生活するために必要な手段でもあります。あとは、社会とのつながりでもあって、仮に仕事をしなくても生活できたとしても、家で一人でずっと何もしないでいられるかというと、多分できないんですよね。
5年後はどうなっていたいですか
5年後、どうなっているんでしょうね。理想としては……今は仕事に関して大半を勤めとしてやっているので、意思決定の部分でもほぼ勤め先に委ねている形なのですが、もう少し自分の考えや自分の裁量で決められる部分が増えたらいいなと思っています。自分で何かを起こしたり、今の仕事を少し減らして、自分でもできる場を自分で作れたらいいなと思っています。
この仕事を目指す人に伝えたいこと
私がまだこの仕事になる前、どんな仕事だろうと知らなかった頃に、インターネットで調べたことがあったんです。そうしたら、すでにこの仕事をしている方が答えている場面があって、「どんな人が向いていますか」という質問に対する答えが、「人が好きな人」と書いてありました。私はそのとき、そんな答えなんだ、と思いながら、正直よくわからなかったのですが、今はその答えがすごくしっくり来る場面がやはりあります。お伝えしたとおり、お相手が人なので、そこがそもそもないと、その先に進まないというのがあるんです。第一には、人が好きというか、人に興味があるというのが、本当に前提になってくると思います。すごくお金を稼ぎたい、ということになってくると、多分少し違ってくるのかもしれません。人に対して興味を持って、でも、自分たちは先生ではないので、あくまで伴走者のような形でお手伝いをするだけなんです。よく「リハビリの先生」と言われるのですが、自分たちは先生ではないと思っています。すごく遠くの先頭に立って引っ張るのではなく、少し後ろか隣ぐらいで一緒に歩いていく、そんなイメージですかね。